「カズ、愛してるよ。愛してるよ」
小児がんと闘い、7歳で亡くなった光武上総(みつたけ・かずさ)くん。
母・綾(りょう)さんが、息子に何度も語りかけた「愛してるよ」という言葉。その家族の最期の日々を記録したNCC長崎文化放送のドキュメンタリーが「愛してるよ、カズ」です。
上総くんが亡くなった2006年から、今年で20年。
その葬儀の日の夜、長崎大学病院で生まれた妹・光武花香(みつたけ・はなこ)さんは、19歳になった今年、医師への道を歩み始めました。
2006年、上総くんは7歳のとき、小児がんで亡くなりました。
長崎大学病院で余命2カ月と診断され、両親は、これ以上つらい治療を続けるのではなく、カズ君らしく、家族とともに過ごす最期の日々を選びました。
その掛け替えのない時間と、上総くんの命の輝きを記録し、後に全国放送されたNCCドキュメンタリー「愛してるよ、カズ」。
命の大切さを伝える作品として、現在も全国各地の学校で、道徳の授業などに活用されています。
そして、上総くんが亡くなって2日後。
葬儀の日の夜、家族にもう一つの命が誕生しました。
妹の花香さんです。
実は、「花香(はなこ)」という名前は、上総くんが生前、妹につけた名前でした。
病院で、母・綾さんのお腹の中にいる赤ちゃんについて話した上総くん。
「カズ、りょうちゃんのおなかの中なにがはいってるんだっけ?」
母が尋ねると、上総くんはこう答えました。
「ハナチャン」
そして、「赤ちゃんの名前、ミツタケハナコって決まってるの」と話していました。
妹の「ハナコ」に会える日を、楽しみにしていた上総くん。
しかし、その願いはかないませんでした。
花香さんは、こう振り返ります。
「妹の名前はハナコがいいって言ってくれたので、私の光武花香、ハナコっていう名前は、お兄ちゃんがつけてくれた名前です。お兄ちゃんの最初で最後のプレゼントだと思ってます」
19歳になった花香さんは、この春、医学生になりました。
「医学生になったんだなっていう実感が少しずつ湧いてきています。最大限学べることを学んでいくっていう気持ちで頑張ろうと思ってます」
母校・履正社高校を訪れた花香さんは、医学部を目指して勉強に打ち込んだ高校時代を振り返りました。
「ずっと本当に医者になりたいなって思ってたので、とにかく医学部に入れるように、部活にも入らずに勉強してました」
「お兄ちゃんに医者になってる姿を見せたいっていう気持ちがあって、ここまで来れたと思います」
なぜ医師という道を選んだのか。
花香さんの心には、兄・上総くんの存在がありました。
「多数ある職業の中で命の最前線で救える仕事って医師じゃないですか」
「お兄ちゃんのこととかもあって。誰かを救いたい、救うっていう形で社会貢献をしたいなっていうふうに思ってたので。一番いい職業は医師なんじゃないかなっていうふうに考えた上でこの選択を取りました」
花香さんは、兄の死を直接知りません。
生まれたのは、上総くんが亡くなった2日後でした。
それでも、両親から聞いた当時の話や記録された映像は、花香さんの人生に大きな影響を与えてきました。
特に心に残っているのが、上総くんを失った両親の姿です。
「普段本当に涙見せないんですよ二人とも。でもその時だけはもう叫ぶぐらい、もう慟哭が響くぐらいに泣いてたので」
「その姿を見て、大切な人を泣かしたくないなっていう思いと。そんな大切な人を失くすっていうことになったときに、どれだけ最善の医療を、家族にとっても患者にとっても最善の医療が届けられるかっていうところが非常に胸に残っているところでした」
医学部を目指して努力を重ねた花香さん。
予備校時代を知る講師たちは、「努力家だった」「努力量がすごかった」と振り返ります。
そして、これから医師として成長していく花香さんに期待を寄せています。
花香さん自身も、19年間、人の命について考え続けてきました。
「19年生きてきて、人の命の重みっていうのはずっと考えていることで」
そして、これから伝えていきたい思いがあります。
「本当にすべての人が誰かにとっては大切な命っていうことを、すごく胸で感じたので」
「認識したとか理解したではなく、感じたっていう部分は非常に自分は大切な部分だなって思っているので」
「ゆくゆくは多くの人に、すべての人の命は尊くて、誰かにとってはものすごく大切なものなんだよっていうことを知ってほしいと思い、命を響かせたいと思いました」
大阪府箕面市の自宅。
花香さんにとって、生まれる前に亡くなった兄は、「いない存在」ではありません。
「なんかずっといるみたいな感じで。私が生まれたときにはもう亡くなってたんですけど、なんか会話の節々にお兄ちゃんの昔の話が出てきたりとか、それで大笑いしたりとか」
「全然実態はないけど、そのお家にいるし」
大切な試験の前には、兄の仏壇の前で決意を伝えることもあるといいます。
「すごい大事な存在。心の支えでもあるし、ずっとそばにいてくれる存在でもあるので」
「逆にずっとそばにいてくれる存在っていうふうな認識はずっとあります」
母・綾さんは、上総くんが望んだ妹が、人を救う医師への道を選んだことを、こう語ります。
「カズが欲しいって言った妹が、こうやって人を助ける方の道に進んでくれて。またここから彼女が救うお医者さんになれて、救える命が増えていけば、それはそれですごく幸せなことでもあり」
花香さんが医師になりたいと話したとき、母・綾さんはこう伝えました。
「ハナが行く道を応援するから、そのまま行っといで」
兄が亡くなって20年。
その命は、家族の中から消えることはありませんでした。
兄が妹につけた名前。
兄の死をきっかけに考え続けてきた「命の重み」。
そして、医師となり、誰かの命を救いたいという思い。
「愛してるよ、カズ」で記録された少年の20年後には、妹・花香さんが歩み始めた、新たな命の物語がありました。
愛と命をめぐる、20年の物語。
テレメンタリー2026「響け命よ~カズと花香の20年~」は、9月26日(土)を放送基準日に全国放送されます。長崎県内では、9月26日(土)午前5時20分から放送の予定です。