長崎県雲仙市南串山町に拠点を構える水産会社・天洋丸は、年間約1000トンのイワシを漁獲し、ニボシなどの水産加工品の製造・販売を手掛けています。
天洋丸の取り組みの一つに、「一年漁師」があります。これは給与や年2回の賞与の支給、社員寮の完備など、漁業の魅力をより多くの人に感じてもらうためのプログラムで、2021年から実施されています。
海と魚が大好きな岸本希望さん(26)は、この取り組みを通じて2022年に埼玉県から移住しました。
「一年漁師」は、コロナ禍で職を失った人や学生などが漁業に挑戦できる機会を提供しようという思いから始まり、社長の竹下千代太氏(60)は「いろんな働き方があってもいいんじゃないかという思いで、この取り組みを継続している」と語ります。
現在、京都から来た和田侑也さん(23歳)も「一年漁師」として働いていて、将来の夢である飲食店経営に向けて漁業の伝統や文化を学んでいます。
「一年漁師」という取り組みは、労働力の確保が課題となる漁業界において、就業者の拡大につながることが期待され、2022年11月には農林水産省などが主催する「農林水産祭」の水産部門で内閣総理大臣賞を受賞しました。
岸本さんは、漁師となってわずか3年ですが、昨年の夏には水揚げしたイワシを運ぶ運搬船の船長を任されました。彼女と一緒に運搬船に乗るのは、二十歳の山﨑侑哉さんです。山﨑さんは「岸本さんは優しくて明るい性格で、頼れる先輩」と語っています。
カタクチイワシの漁は夜に出港し、朝にかけて行われ、岸本さんは「魚が獲れれば嬉しいし、海に出ること自体が好き」と語ります。
また、岸本さんは運搬船の船長を務める傍ら、天洋丸が養殖した魚の販売にも取り組んでいます。特にこの時期に養殖されているのがサーモンで、天洋丸では1月から5月ごろにかけて養殖しており、今年で2年目となります。
養殖課長の牧島一仁さん(38)は「サーモンの養殖は全てが初めての経験で難しい」と語ります。天洋丸がサーモンの養殖を始めた背景には、夏に発生する赤潮被害への対策があります。
昨年、橘湾を中心に過去最大規模の15億円の被害が発生しました。
サーモンは冬場の養殖のため被害を受ける心配がないことから、リスク管理の一環として取り組まれました。「橘湾夕焼けサーモン」として、雲仙の新しい特産品としても期待されています。
岸本さんは「売れた時の喜びもあるが、より良い状態で届けるにはどうすればいいかを常に考えている」と語り、サーモンの販路拡大に取り組んでいます。また、漁業の楽しさや魅力を発信し、「漁師に興味がある人は行動を起こしてほしい」と呼びかけています。