今年で最後となる郡市対抗県下一周駅伝が26日、長崎新聞社前をスタートしました。70年にわたり幾多の名勝負を刻んできた大会がついに幕を下ろします。これまで多くのランナーが郷土の誇りを胸にたすきをつないできた県下一周駅伝。最後の大会で長年の夢をかなえようとする最多出場のランナーの思いに迫ります。
●幾多の名場面生んだ県下一周駅伝がラストレースに
選手宣誓・壱岐チーム・川谷勇貴選手(32):
「最後の1秒まで諦めずたすきをつなぎ、有終の美を飾れるよう、懸命な走りを誓います。」
郷土の誇りを胸に、11人のランナーたちが駆け出した…。郡市代表11チーム、約400人のランナーが3日間かけて県内42区間・407.3キロでたすきをつなぎます。今年で70回目で迎えるこの大会は、1952年2月17日にスタートしました。
72年前、第1回大会の1区を走り、区間賞を獲得したのが、当時、長崎工業高校の2年生で17歳だった嘉松政春さんです。89歳になった今も当時のことを鮮明に覚えています。
嘉松政春さん:
「(コースの)両方にずっといっぱい観衆・見物人がいた。だいぶにぎやかだった。ただ無我夢中で、一生懸命ゴールに飛び込んだ感じ。」
嘉松さんをはじめ、多くのランナーの思い出が詰まったこの大会。主催する長崎新聞社は、「県長距離界の発展という目的を一定、達することができたと判断し、今回で幕を下ろすことを決めた」としています。共に主催する長崎陸上競技協会は、「来年以降も何らかの形で代わりの大会を開きたい」としています。
嘉松政春さん:
「さびしいな。しかし、よく70回までやったなという思いもある。」
●最後の大会で長年の夢実現へ
そんな今大会、長年の夢の実現へたすきをつなぐランナーがいます。今年還暦を迎える、土肥正幸さん(59)です。警察官(諫早警察署所属)として働きながら競技を続け、今回の出場でなんと最多タイの36回目です。正幸さんの練習パートナーは、息子の健太さん28歳。多忙な日々でも毎日、欠かさず走っています。
土肥正幸さん:
「休まずに走ってました。大好きとかそういうレベルじゃない。1日終わらない、走らんと。」
土肥さんの初出場は、大学1年生だった19歳の時。地元の北松・松浦チームから出場しました。
土肥正幸さん:
「佐世保市内とか長崎市内とか、めっちゃめちゃ人が多い所の道路の真ん中を走れる。すごいなと思って」
諫早市内に引っ越し、長年、諫早チームとしてたすきをつないできましたが、今回出場するのは、北松・松浦チームから。その訳とは?
土肥正幸さん:
「息子と同じ区間を一緒に走って、勝ちたいなと。勝つのは無理だけど親子対決」
息子の健太さん(28)は、5年前から正幸さんと一緒にランニングを始めました。
土肥健太さん:
(Q.始めたきっかけは?)「無理やり走らされたからです」
親子対決の実現を願うも、還暦が近い正幸さんにとって、スタミナが求められる長距離走の継続は簡単ではありませんでした。
父・正幸さん:
「本当はコロナ禍が始まる前に親子対決を実現したかったんですけど、コロナの関係で(大会が)延びて延びて…。だからそこの2年3年の体力を維持するのは大変だった。どうにか実現させたいと思っていた。ここまでやっとはってたどり着いた感じ」
4年ぶりの開催となった今年、健太さんは、初めて諫早チームのメンバーとして選出。そして多くの人の協力を得て、同じ区間を親子で走る夢が実現しました。
諫早チーム・俣野剛総監督:
「今大会一番の目玉。(土肥さん)一番の目玉は違うやろうけど…。息子さんと走れて幸せでしょうね」
父・正幸さん:
「もう本当に諫早チームと北松・松浦チームの監督さんに感謝しかない。少しでも若い人たちに『年齢いっても頑張れるんですよ』というところを見せてあげたい。何かしか感じてもらえるような走りができれば良いのかな」
●大会当日、親子対決の夢実現へ
2人が走るのは、1日目の第9区。佐世保市吉井町から江迎町までの8.3kmです。それぞれのチームの8区のランナーを待ちます。先に中継所に来たのは、息子・健太さんの諫早チーム。父・正幸さんより先にスタートを切ります。正幸さんは、8区のランナーを待ちますが、約20秒後、北松・松浦チームはトップから約6分たったため、繰り上げスタート。36回目の出場、息子と同じ区間を走るラストレースが始まりました。
28歳の息子の背中を追い掛け、59歳の父が登りの険しい道も駆け抜けます。しかし9区は諫早、北松・松浦ともにトップから約6分遅れ、10区が繰り上げスタートとなりました。それでも沿道から多くの人が見守る中、先にやって来た息子の健太さんがゴール。チームのため全力を出し切りました。
そして、待つこと約1分半。70回の歴史の半分以上、最多タイ・36回目のたすきを運び、正幸さんがゴール。感謝のラストランとなりました。
タイムは健太さんが27分28秒。父・正幸さんが29分13秒。長年の夢、土肥親子の対決は、1分45秒差で息子の勝利で幕を閉じました。
父・正幸さん:
「きつい。きっかったですけど、良かった。走れて本当に良かった。息子がちょっと前にいったので追いかけたんですけど、もうやっぱりかなわない。あっという間に見えなくなりました」
息子・健太さん:「きつかったです」
父・正幸さん:
「もうそれ以外ないやろな。でもよく頑張ってましたよ。諫早チームのゼッケンとたすきかけて、しっかり最後まで走ってくれたので良かった」
沿道で見守った母・恵美子さん:
「なんかほっとしました。毎日毎日この日のために練習を積んでたので、きょう夢がかなってうれしい」
ラストレースとなる県下一周駅伝。土肥さんをはじめ、先人たちがたすきに込めた思いは、これからも変わらず、別の形で次の世代につながることを願って…。
父・正幸さん:
「まだこの歳になっても走れるんだから、みんなやめるのまだ早いよって言いたいですね」
県下一周駅伝は、28日(日)の午後3時45分ごろ、長崎新聞社前にゴールします。