核保有国と非保有国の有識者が、核兵器のない世界への具体的な道筋を議論する政府主催の「国際賢人会議第3回会合」が長崎市で初めて開幕しました。会議に参加する委員らは開会に先駆けて原爆資料館の視察や被爆者との対面などを通して、被爆の実相に触れました。
午前9時、委員11人と、開催地の有識者として被爆者の朝長万左男さん(80)が平和公園を訪れました。鈴木長崎市長から右手で「原爆の脅威」を、左手で「平和」を表す平和祈念像について説明を聞き、原爆犠牲者に花を手向けました。国際賢人会議は広島選出の岸田総理が立ち上げた肝いりの会議で、長崎での開催は広島、東京に続き3回目です。
核保有国と非保有国双方が核廃絶に向けた具体的な道筋を話し合うもので、核保有国はアメリカやロシア、中国、フランス、インドから参加しています。ロシアのウクライナ侵攻、紛争が続く中東情勢など、核軍縮を巡る国際社会の分断が一層深まる中、政府は今回の会議を2026年のNPT再検討会議に向けた検討を加速化させるため重要と位置づけています。
鈴木長崎市長:「いま一度この被爆地長崎から核兵器の脅威、核兵器の非人道性をしっかり発信していただき、それを今後の核兵器廃絶の議論の加速化に繋げていただきたい、そのための実り多き議論が今回の国際賢人会議で行われることを期待」
委員らは原爆資料館を視察。井上琢治館長が長崎市街の地形模型の前で原爆投下直後の長崎市の惨状について説明しました。展示の視察は約40分にわたり行われ、委員らは被爆して体に大やけどを負った故・山口仙二氏の写真などに目を向けていました。その後、当時18歳で爆心地から北1.8キロの長崎師範学校寮で被爆した築城昭平さん(96)の講話を通して被爆の実相に触れました。
自分の言葉で伝えたいと、英語で被爆体験を語った96歳の築城さん。「被爆者がどんな体験をしたか少しでも分かってもらいたい」と臨みました。
築城昭平さん(96):「一番知ってもらいたいのは放射線の怖さ。これが人類を滅亡させるもとになっていく。そういうことをもっともっと理解してもらいたいと思って話をした」
その後、被爆者団体や平和活動に尽力する高校生や市民らと面会し、それぞれの核廃絶への強い思いに耳を傾けました。
長崎原爆被災者協議会・田中重光会長(83):「1日も早く核兵器をなくすため、日本政府が核兵器廃絶の先頭に立っていただくよう、そういう提言をどうぞしてください。私たちはそれを願っています」
ローズ・ゴッテメラー元アメリカ国務次官(軍備管理・国際安全保障担当):「12月8日はアメリカ国民にとっても大変重要な日、真珠湾攻撃の日です。奇襲作戦という意味では、ウクライナや中東で起こっていることを思い起こさせる12月8日でもあります。この重要な機会を捉えて、この長崎に賢人会議の皆さんが集い、核兵器のない世界という目標に向けて、もう一度希望を持って歩いていくことは重要だと思っている」
Peace Education Lab Nagasaki・林田光弘さん(31):「被爆地としては、賢人会議がまとめたレポートを各国の指導者の方々がどう受け止めるのか、どういうふうに行動につないでくれるのか非常に期待しているのでは」
午後、委員らは爆心地から約500メートルに位置する長崎市立城山小学校を訪れ、校内に保存されている被爆校舎を視察しました。旧城山国民学校施設長で小学2年生の時に被爆した池田松義さん(85)が、原爆投下後の長崎の状況を写したパノラマ写真や熱線で焦げた木煉瓦、正門入ってすぐの少年平和像について説明しました。
池田松義施設長:「日本に落とされた広島・長崎の原爆の原点をしっかり世界に伝えていくというのが大きな役目ではと思います。私たち庶民にできることは戦争はいけないことなんだ、争いはだめなんだ、ましてや核の使用なんてことは絶対あってはならない、『持たない、作らない、持ち込ませない』の非核三原則の堅持をしていく大きな責務があると思います」
午後2時すぎ、出島メッセ長崎で開幕した国際賢人会議。委員13人が対面、1人がオンラインで参加しました。熊本県立大学理事長の白石隆座長は「核軍縮、軍備管理について議論を深めることを強く期待している。また、AIなど新しい技術が核問題に与える影響についても議論したい」とあいさつしました。
エネルギー・安全保障研究センター アントン・フロプコフセンター長(ロシア):「なんとか共通の立場を見出そうとすることは非常に大事なことだと考えている。誰しもが核使用の可能性が高まることを望んではいない。なぜならそれは全世界に影響する問題だからだ」
会議は9日までで、9日午後のセッションには岸田総理も参加する予定です。
1日目のセッション終了後、会議の内容や成果について、熊本県立大学理事長の白石隆座長が報道陣の取材に応えました。
白石隆座長:「戦略環境の変化がどういう意味合いを持っているのか、新興技術がどういう意味合いを持っているのか、そもそもこの問題全体が倫理的道徳的にどういう意味を持っているのか、この3つを大きく扱いたいということには合意ができた」
広島、東京に続き3回目の開催となる国際賢人会議には核保有国と非保有国の有識者ら14人の委員が対面とオンラインで参加しています。会合は9日までで、9日の閉会セッションには岸田総理も参加する予定です。