
江戸時代から明治にかけて染物屋が軒を連ねていた平戸市紺屋町(こうや・まち)。かつて50軒以上あった染物屋の歴史を今に伝える「上の木寺染物店」は、地域の伝統と美を守り続ける老舗です。
店を切り盛りするのは5代目・山本久美子さん。父の跡を継いで約30年、伝統の技と現代的な感性を融合させ、染物の新しい可能性を切り拓いています。
「やりたいことを試行錯誤し続けてきて、ようやく30年経って形になりつつある」
伝統を守るだけでなく、自身の表現を追求する姿勢が、店の魅力をさらに深めています。
趣味で作ったというドレスを見せてくれました。白い木綿生地に染の技法を用い、立体的な平戸のツツジと椿をデザイン。花びら一枚一枚を染め上げる工程は、動画サイトで見たDiorの職人技に刺激を受け「負けられない」と挑戦したそうです。
生地は刷毛で染料を引く「引き染め」技法で、藍色をひたすら塗り重ね、羽のような模様は平戸の名産・あご(トビウオ)が波間を飛ぶ姿をイメージ。自然の生命力と平戸らしさを染色で生き生きと表現しています。
節句のぼり作りは、父から「武者の顔をよく見て勉強しろ」と教えられた伝統の仕事。父と娘が描いた同じ図柄の節句のぼりも、顔の表情や迫力に違いがあります。先代の作品と比べて、自分の描く顔がやさしくなってしまうと感じています。
「口のむっとしたところ、睨む感じが足りないんですよ」
父の偉大さを感じながら、伝統の技を大切に受け継いでいます
久美子さんの夢は、平戸の伝統凧「鬼洋蝶(おにようちょう)」を迫力ある図柄で描くこと。「上の木寺染物店」には、平戸の自然や文化を染め上げた作品が並び、染色体験も楽しめます。
上の木寺染物店
住所 平戸市紺屋町371
電話 0950-23-2698
営業時間 9:00~18:00
定休日 不定休
駐車場 1台