「長崎のいろんな歴史を乗り越えている場所なので」
こう話すのは、長崎市出島町のイタリアン喫茶 GIOIA(ジョイア)のオーナーバリスタ田口大介さん。
レンガ色の外観と丸みを帯びたデザインは、裏通りという場所柄と相まって、レトロな雰囲気に包まれています。2024年10月にオープンしたGIOIA。田口さんに店のこだわりを聞くと、イタリアンとはおよそ結びつかない80年前の「原爆」、そして長崎への思いが語られました。
今年は、「昭和100年」、長崎原爆から80年の節目の年。GIOIAが入るビルは、かつて印刷組合が入っていたこともあり、「印刷会館」と呼ばれていました。確かに入り口には、うっすらとその文字が確認できます。
ビルには、今も長崎県印刷工業組合の事務局が入っていて、貴重な活版印刷の機器などを大切に保管しています。
「約100年になります。正確に言うと築97年」
まるで、祖父の話をするかのように語る田口さんの話しぶりからは、店が入るこの建物への強い愛着が感じられます。
100年前1920年代の長崎市といえば、上海航路も始まり、都市として急速に発展、九州では1位の人口を誇っていた時代です。しかし、このビルが見てきた長崎は、華やかな時代だけではないことを田口さんは強く意識しています。
「原爆を乗り越えている建物になりますね。被爆建造物に認定されています」
被爆建造物について長崎市は、原子爆弾による「破壊」や「影響」、「痕跡の有無」などでAランク~Dランクに分けられています。旧印刷会館は、被爆の状況を伝える痕跡が少ないDランク。保存対象から外れています。
だから店のコンセプトに合わせて、自由に改装することも可能でした。実際、店舗として借りる時も「何をしてもいい」といいと言われ、その制約のなさが借りようと決めたきっかけでもありました。しかし、ほどなくこの建物に対する思いは、違う形で膨らみ始めます。
「何もしなかったら、このまま消えてしまってもおかしくない建物なんです。長崎のいろんな歴史を乗り越えている場所なので、すごくこの場所でやりたい(開業したい)という気持ちは、強くなりましたね」
「何をしてもいい」と言われていましたが、「なるべくそのままを残したい」と内装には、ほとんど手を加えていません。
そんな店内に目を引く大きな絵が飾ってあります。平和活動をしている即興画家 松尾眞一郎さんの作品です。開店にあたり、田口さんは約10年のつきあいのある松尾さんに絵を依頼しました。
「好きに描いてください」
完成したのは、GIOIAをイメージした青を基調に描かれた抽象画でした。大きな円環は平和を表し、港町、坂の町長崎から世界に向けて、平和発信が広がる思いを表しているといいます。
もちろんGIOIAは、カフェとしても魅力があります。大阪や佐世保でイタリアンのコックとして経験を積んだ田口さんが作る平日限定の週替わりワンプレート(900円)。この日は、ブロッコリーと豚肉の煮込みがメインでした。
さらにバリスタとして日本一に輝いたこともあるという腕でつくるカプチーノもセットにできます(+ドリンクセット1,200円)。
開店から半年、田口さんは約100年の長崎の歴史を刻んできた建物の中で料理を提供することに特別な意味を感じ始めています。
「原爆っていい思い出じゃないですし、災害もそうですし、そういうものを乗り越えてきて、そういう建物の中で楽しんでいただく、感じていただくというのを大事にしたいなというのは思ってますね」
イタリアン喫茶 GIOIA~ジョイア
住所 長崎市出島町10-13
電話 095-801-1494
営業 火~土 11:00~21:00
日 11:00~18:00
休み 月・第3日曜