長崎文化放送(NCC)が制作し、2026年3月に放送した報道特別番組「この星で、どう生きる-核の影-」が、テレビ朝日系列24社の番組審議委員が推奨する第32回PROGRESS賞の奨励賞を受賞した。
高市政権が掲げる「防衛力強化」。ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢、中国の海洋進出、核戦力の増強など、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。
国内でも、官邸筋の核保有発言や非核三原則の見直し論が浮上。核兵器をめぐる議論が改めて問われるなか、番組は核抑止を支持する立場も含め、さまざまな視点から核兵器と平和のあり方を問いかけた。
番組では、日米英の若者たちに核兵器や戦争をどう捉えているのかを聞いたほか、防衛省関係者やロシアの駐日大使、被爆者らを取材。核抑止をめぐる国際政治の現実と、核兵器が人々にもたらす被害の双方に目を向けた。
なかでも描かれたのは、真珠湾攻撃で被害を受けたアメリカと、原爆を投下したアメリカへの憎しみを抱えていた被爆者の女性が、対話を通じて心を通わせていく姿だ。
番組を評価したテレビ朝日放送番組審議会の見城徹委員長(幻冬舎社長)は、講評で、当初は作品に対して懐疑的だったことを明かした。
「『戦争』も『核兵器』も誰だって反対に決まっている。また高校生のホームルームのような現実離れした正義の理想論を押し付けるドキュメントかと、最初はうんざりしたが、徐々に画面にのめり込んで行った」
そのうえで、戦争と核兵器に人生を蹂躙された人々の姿や声に言及。特に、被爆者の本村チヨ子さんと、真珠湾攻撃を体験したアメリカ人女性のルーシー・ニコルソンさんが交錯する場面について、「感動的だった」と評した。
見城委員長は、政治的な大問題をドキュメンタリー作品にする難しさを指摘しながら、「それを乗り越えたダイナミックな手法に敬意を表する」と述べた。
また、作品について語るなかで、善と悪を単純に分けることはできないという考えを示し、作品は運動やスローガン、問題を映し出すこととは異なる「表現」であるべきだと強調。「ドキュメンタリーは、個体の表現であるべきだと、いつも思っています」と語った。
プロデューサー・ディレクターを務めた長崎文化放送の志久弘樹は、受賞にあたり、被爆80年の節目を挟んだ3年間の制作を振り返った。
「この作品は、被爆80年の節目を挟んだ3年間で制作した9作品のうち、7作目にあたります。それまでは被爆者や高校生平和大使らの思いをつむいできましたが、この番組では、被爆地の放送局としては異端かもしれませんが、核抑止論の世界に飛び込みました」
被爆地の放送局として核兵器の問題をどう伝えるのか。志久が目指したのは、核抑止を支持する人々の考えを理解しようと努めたうえで、核兵器のある世界の現実と矛盾を見つめることだった。
取材を重ねるなかで、たどり着いた考えがある。
「核抑止と核廃絶は二者択一ではなく、時間差ではないか。核抑止の時代の先に、核廃絶の時代があるのではないか、という考えです」
核抑止をめぐる現実を無視することなく、それでも核兵器のない未来をどう実現するのか。番組は、どちらか一方の正しさを押しつけるのではなく、異なる立場の人々の声を通して、その問いを視聴者に投げかけた。
志久は、核兵器について「罪のない人々を無差別に殺し、生き残った人々にも放射線による苦しみを与えます」と述べ、こう続けた。
「そんな兵器で平和を守る時代は、いつか終わらなければならないと思います。その未来に少しでも早く近づけるよう、これからも、小さな一歩を、小さな一助を発信し続けていきたいと思います」
番組が伝えようとしたのは、核兵器をめぐる政治や安全保障の議論だけではない。対立する国や人々が、どうすれば互いの声に耳を傾け、関係を築いていけるのかという問いでもある。
長崎の被爆者の故・山口仙二さん(元日本被団協代表委員)は、かつて、第三次世界大戦を防ぐことの重要性を次のように語っていた。
「とにかく第三次世界大戦をさせないというのが『地球市民』の役目だと思います。どんなに強いアメリカでも『地球市民』のそういう声には反対できないです」
そして、若者たちへの期待を込めて、こう笑った。
「若者たちは希望です。頑張ってくれると思っていますから。信じています」
核兵器をめぐる国際情勢が緊迫し、核抑止の必要性を訴える声が強まる時代。被爆地・長崎から発信された「この星で、どう生きる-核の影-」は、核兵器をなくすべきだという理念を掲げるだけでなく、核抑止を必要とする人々の論理にも向き合いながら、私たちはどんな未来を選ぶのかを問いかけている。