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2026/5/1(金) 22:30

「令和のミスター円」神田眞人・アジア開発銀行総裁に単独インタビュー

  • #経済
「令和のミスター円」神田眞人・アジア開発銀行総裁に単独インタビュー

 4月24日、アジア開発銀行で第11代総裁を務める神田眞人氏に単独インタビューを行った。財務官として巨額の為替介入を取り仕切り、「令和のミスター円」とも呼ばれる神田総裁が中東情勢の影響をもろに受けるアジアの現状、日本の取るべき対応、そして「円」のこれからをどう見ているのか、インタビュー全文を公開する。

【中東情勢のアジアへの影響】  Q.中東情勢、日々変わっているが、世界、特にアジア経済への影響やリスクをどう分析し、どう対応する必要があると考えるか?  神田総裁:中東情勢は非常に不確実性が高い、しかも残念ながら今のところあまりいい方向ではなくて、一番困ってるのは、アジアが最も大きなインパクトを受けているんですね。それはやはり湾岸あるいはホルムズ海峡への依存度が高い。世界全体で、オイル・ガスの依存はあの地域は20%ですが、日本は95%。ただ、例えば東南アジアでも60%あって、非常に大きな影響があります。

 それから、当初予想されたよりも大きな影響というのは、やはり施設自体が破壊されているので、その復旧に時間がかかる。例えばカタールのLNG(液化天然ガス)とか何年かかかると言われています。

 それから、長引くと波及効果ですね。エネルギーというのは輸送費とかに転嫁されていきますから、すべてのセクターに今広がっていく。  最初は、新型コロナと違って、需要供給、全セクターではなくて一部のセクターの需要だったわけですけど、今すべてに広がりつつあって、例えば肥料なんかは40%上がっちゃってますけど、今後の食料生産に影響があります。

 どれくらいのマグニチュードかというのも不確実性があるんですけど、当初我々は例えばこの途上国のアジア地域の成長を今年どれくらいを見込んでいたかというと、去年5.4だったのを5.1だったんですが、今は恐らく4%台に修正されます。まさに今、再計算をしているところなんですけども、4%台まで下がる。  インフレも去年3%だったのを、もともと3%台を考えていたんですけれども、恐らく5%台。それから、非常に厳しいシナリオの場合、紛争が長引く場合は7%台も覚悟しなければいけないという状況までなっています。  とりわけやっぱりしんどいのは、日本もそうですけれども、エネルギーの純輸入国ですね。日本、韓国だけじゃなくて、例えばトンガとかモルディブみたいなところだとGDPの10%をエネルギーの輸入が占めている。

 それから、海外送金ですね。湾岸で働いている方、お金をもらっているというのが非常に大きくて、ネパールとかバングラデシュ、パキスタン、非常に依存度が高い。

 さらに言うと、さっき申し上げたすべてに広がるというので、まず原材料ですね。医薬品とかあるいはパッキング(包装)まで、すべて。さらに言うと、半導体なんかにも影響が出てきています。

 もう一つ非常に深刻なのは金融市場への影響で、株式市場においてもそれから債券市場、為替市場においても、恐らく世界の中でアジアのマーケットが一番変動が大きい状態になっていて、資金流出もかなり大きな規模になっています。 非常に深刻な状態で、そうした時にどうしたらいいのかということなんですけれども、やはり足元しっかりと対応しなきゃいけないというので、脆弱(ぜいじゃく)な人々を守るためのプログラムというのはやるわけですけれども、その時に持続可能性あるいは市場を歪めてしまうようなことをしてはかえって逆効果ですので、例えば補助する時も最も困っている人に的を絞ってやることが必要ですし、それからこういった機会に自国経済を強靭(きょうじん)化させること、恐らく後で説明することになると思いますけど、あるいは地域連携で他の国々と一緒に強靭性を高める、こういったことをやる非常に重要な機会になっているんだと考えます。

【日本への影響】  Q.アジア、非常に脆弱な国も多い中で、日本も原油は輸入に依存しているが、日本経済への影響は A.やはり色々な確保をしなきゃいけない部分があると思います。  幸い備蓄があったので、足元のショックの吸収はできていますけれども、例えばインフレへの影響というのはこれからだと思うんですね。  さっき申し上げた農業なんかは今肥料が上がっていますけれども、実際の食料生産へのショックというのはこれから発現していくことになります。 日本はとりわけエネルギーとか食料の依存度が高いわけですから、不足自体は大変ですけれども、それがインフレに与える影響、そしてそれはさらには金融政策にも影響を与える可能性があるので、非常に注視をする必要があると思っていますし。  この機会にやはり構造改革を進め、より強靭な体制にする。特にエネルギーのより効率的な使用と、それからエネルギー源の多様化、特に安全が確認されている原子力発電所の稼働を急ぐとか、やれることをすべてやっていく必要があるんだと思います。

 Q.日本はガソリン補助金を出して多額の補助を全体に出す政策をしているが、本当に困っている人たちにフォーカスをしてというのとは真逆の政策。こうした政策を取っている現状はどう分析?  A.一般論として申し上げると2つあって、やはり限られた資源は的を絞って一番困っている人に集中させるのが良いだけではなくて、やはり今エネルギーの価格が上がって困っているときは需要をコントロールするということも重要。  例えば今私たちが本部を構えているフィリピンでは、いわゆる緊急事態宣言の下で省エネ政策ですね、あらゆるガソリンとかの使用を控えるような政策をやっています。  価格が上がっているというのは一つの市場からのシグナルなので、それに合わせて人々の行動、企業家計の行動というのを変える機会になっているわけですけれども、それを過度に抑えてしまいますと適応が遅れてしまうという問題が出てきます。  本当はこういった機会にエネルギーの使用の在り方というのを改善していくチャンスだと捉えるべきだという考え方が非常に強い中で、なるべく的を絞ってしかも時限的にするということがオーソドックスなやり方だと考えられています。

【ADBの役割】  Q.ADBとしても既にアジア太平洋地域への支援パンケージを発表しているが、こうした状況におけるADBの役割はどうあるべきだと考えるか  A.我々は一番早くてしかもスピードがある。新型コロナの時もそうでしたけれども、今回既に多くの支援の要請、協力の要請が寄せられていまして、そこをしっかりと対応していかなきゃいけないと思っています。  その準備がかなりできているのは幸いでして、一番大事なのは状況の把握ですけれども、私はすでに40数カ国の首脳と会っていますけれども、トップレベルでプライオリティというのを確認することが日常的に容易であるというのと、より重要なのは、現地に分権化を進めながら、しかも長い現場での協力の歴史がありますので、かなり現地の事情に即した支援ができる。  支援の中身も無償から投資、融資、メザニン、様々なツールというのを揃えていて、しかも多くの機関と違って、政府に対しての支援とそれから民間企業に対しての支援が、ADB一つしかないんですね、法的な主体として。バランスシートも一つしかないので。非常に珍しいんですけれども、完全に一体化した統合した形で政策の変更、規制緩和みたいなことから、個別の取引まで同時にやっていくことができる。

 一番重要なことの一つというのは、我々、「ファイアパワー」と言っているんですけど火力、資金力も充実していまして、設立以来初めての協定改正と、それからいわゆる資本の効率的な活用によって50%融資余力を高めている。「ヘッドルーム」というんですけれども、1000億ドル追加的に融資できるようになりましたので、これを今回も活用することができる。

 具体的に何をやるのかというのも色んなメニューがありますけど、大きく2つあって、一つは、やはり今エネルギーとか食料あるいは医薬品、半導体、これを輸入が止まりつつあるので、そこをしっかりと貿易金融を支援しなきゃいけない。 我々は貿易サプライチェーン金融プログラムというのを持っていまして、去年は57億ドル出して、これを60億ドルまで増やしていこうと思っているんですが、これはもう24時間から48時間の間にバンと支援できる仕組みで、民間企業が「こういうものを輸入したいですよ」というときに直ちに対応できるというのが、もうすでに動き出しています。  特に今回の危機に即して、一時ずっとある意味禁止していた石油のトレードを、今回時限ですけれども、石油の輸入についてもこのプログラムの貿易金融の支援の対象にしましたので、解禁をしましたので、これは今有効に使われています。

 2つ目は、政府に対しての緊急支援、財政支援、これも非常に迅速にしかも大規模にやることができます。 既に先月スリランカの大統領にお会いしたときに、追加支援を私から直接お約束しましたし、カンボジアとかバングラデシュから公式の要請があって、もうすぐ結果が出ると思います。  今、すべての国々と交渉といいますか、意見交換を現地でさせていまして、恐らく数十カ国からの要請がだんだんと現実化といいますか、実際の支援につながっていくことになると思っています。

 こういったことというのは、私はやっぱり災害国出身ですので、台風とか地震、スピードが大事だというのをすごく認識していまして、今回の中東危機に限らず、去年色んなところで洪水とか、あるいは台風、それから地震の被害がありました。  これは本当に数日以内に支援を送るということを徹底していまして、今後もそういったスピーディな対応に努めていきたいと思っています。

 Q.石油のトレードを解禁したというのは?  A.やはりクライメートアクション(climate action)ですね。気候変動対策で化石燃料についての使用というのを控えるという世界的な流れの中で、既存のポリシーでは貿易金融の対象に石油を入れないことになっていたんですけれども、今回はやはりそうしていると、目詰まりを起こしてしまうので、あえて時限ではありますけれども解禁をした次第です。

【日本がADBに貢献する意味】  Q.こうしたADBの活動に対して、日本ではまだ知られていないところ、理解されていないところもある。ADBに日本が貢献する意味はどう感じる?  A.一つは効果的な支援といいますか、国際的な協力ができるということで、例えば日本から出していただいた1円が60倍の開発金融になるんですね。60円の。60倍のレバレッジがあって、しかもそのプロジェクトは私ども誇りを持っているのは最先端の技術と、それから現場の最も緊密な連携に基づいてやっていますので、同じお金であっても、極めて有効に使われると思っています。

 それから日本企業にとっても、普段なかなか手が届かないようなところにビジネスの機会を作ることができますし、特に今回、調達の改革をやりまして、英語で「メリットポイントクライテリア(Merit Point Criteria)」というんですけれども、「バリューフォーマネー(value for money)」、要は安ければいいんじゃなくて、価値のあるもの、質が高いもの、生涯コストが安くつくもの、そういったものを重視するような採点の仕方、調達採点の仕方を国際競争入札のものに強制することになったので、ものによっては50%以上価格ではなくて質になったので、これまた日本企業にとっては非常に進出するのに良い機会になると思います。

 これを私が言うのは良くない、私自身は全加盟国を公平に代表しなければいけないんですけれども、事実として私が色んな国で首脳とかビジネスリーダーとかあるいは現場のパートナーと会っていると、よく日本の話題になると言いますか。ある意味、ADBの貢献を日本人の貢献みたいに知ってくださっている方が多くて、一つの日本の外交のソフトな貢献になるんだろうと思っています。

 より直接なものは、ご存じの通り、直接日本の援助機関、あるいは日本の企業と一緒になって色んなプロジェクトをやっている。これはまさに我々非常に政府とも強いし、現場の情報あるいはコネクションがありますので、そういった日本の様々な活動に対してのレバレッジになっているのも間違いないと思います。

 Q.日本の1円がどうして60円の価値になるのか。日本だからそれができるのか?  A.日本だからじゃなくて、全体ですね。アジア開発銀行に資本を入れると、60倍になるっていうことです。特に日本だけということではありません。

 Q.日本国内では国際協力に否定的な声、もっと国内に金を使えという要望も政府に対してある。日本が貢献する意味とは  A.今回の危機でも明らかになったように、日本はやっぱり自由で開かれたサプライチェーンあるいは自由貿易体制が必要なんですよね。  非常にある意味脆弱で、やっぱり生き延びるため、あるいは繁栄するためにはしっかりした国際秩序が必要なのは間違いない。  別に鎖国して生きているわけではないし、ましてや人口が減っていく中で、とりわけ人口ボーナスがあるだけではなくて、相対的に政治も経済も安定して成長しているアジアに対して進出するというか、そこで活躍をする必要がある中で、やはりこのADBのような国際機関というのがその守護神みたいな状態に今なっていますので、これを有効に活用していただくことは非常にいいと思います。

 それからやはり、非常に地政学的な緊張も高まっている中で、日本の存在感を高める必要がある。国際社会でそれなりの発言力を持つためには国際機関を利用するというのは非常に有効なやり方で、諸外国はみんなそうやっていますね。 だから、外交といいますか、国策の発揚として、もう一つはビジネスといいますか、経済の発展の機会として非常に活用されていて、私もさっき途上国のリーダーの話をしましたけれども、先進国、例えば最近だとヨーロッパのリーダーたちがADBをヨーロッパの企業とアジア市場の架け橋に活用しようとする戦略をお持ちのところが多いと思います。

 もう一つは、ある意味地政学的な対立の激戦地という言い方は変なんですけれども、南太平洋を中心にして非常に緊張感が高い。  それぞれの国自身は、ある意味どの大国も敵に回したくないんですね、正直。  そうすると、国際機関、特にADBはすべての国とある意味うまくやっている。正直に言うとアフガニスタンとミャンマーは今、正当政府がないのでそこはちょっと直接的に政治ではやっていないんですけれども、それ以外はすべて非常に緊密にやっていますので、国際機関を通じて彼らの政策を進めるというのは、非常に増えている感じがしますね。  そうすると、私自身が挟まれたりもするんですけれども、ただそれは我々の仕事なんで、より世界に役に立つ、アジアに役に立つようなものに持っていこうという努力をしています。

【世界のトップは】  Q.様々な国や機関のトップと話をしていて、彼らは今の中東情勢をどう捉えている?  A.ものすごい高い危機感ですね。 特にエネルギー、食料に関係するので、私にそうは言わないですけれども、明らかに社会不安、政治の安定に直結する。極端に言えば、ガソリンがなかったり電力料金が高くなると、暴動だって起こりかねないような話ですので、すごい高い緊張感があります。

 ただそれに対してちゃんと立ち向かうという覚悟と、より重要なのは、この機会に一層のこと改革を進めようというような胆力と言いますか、だから足元で不人気な政策であっても、ここで危機をある意味、モメンタムとして必要な改革を一気にやろうというようなリーダーとかが多いような気がしますね、話していて。  私自身もそれを勧めていると言いますか、改革を逆行させるんじゃなくて、日本ではよく「ピンチはチャンス」と言いますけれども、我々は「チェレンジ(challenge)をオポチュニティ(opportunity)に変えるんだ」ということを言っていて、そういう議論をやっていると、ほとんどのリーダーたちは私に同意をしています。

 具体的に何をやるというのは国によってだいぶ違うんですけれども、一般的にはやはり自国経済を強くしなければいけないことを再認識する。  結局、外的な要因で苦しめられるというのはもうごめんだと。やっぱり自分たちで強くなるしかない。関税戦争にしても今回の中東にしても、やはりサプライチェーンが脆弱だから、あるいは金融市場が弱いからひどい目にあっているんだ、やっぱり強くなりたい、だからADB助けてちょうだい、ということが多くて。

 一つは、やはり健全なマクロ経済の運営ですね。これは一番の、例えばしっかりと海外の投資を引き付けるためにも最低限必要なことです。  それから、自国の競争力を高めるための規制緩和とか、色んな構造改革。  それからインフラですね。人的資本を含めて投資しなきゃいけない。  今回のエネルギー危機で一番、皆必要性を感じて、我々も支援をしようとしているのは、あらゆる意味での多様化で、産業も多様化しなきゃいけない。貿易パートナーあるいは資源のサプライチェーンも多様化しなきゃいけない。どこか一つに頼っているとやっぱり怖い。だから多様化するんだと。 その中には、例えばエネルギーでは原子力発電も入ってくるということですね。再生エネルギーあらゆるものも引き続きやるわけですけれども。  あとは、自分たちの資本市場というのをもう少し厚いものにしなきゃいけない。とりわけ現地通貨の市場を強くすることができれば、為替変動のショックというのを和らげることができるだろうと。この塊、実行経済を強くするというのが一つ。

 もう一つの塊は地域連携、地域協力の強化です。  要するに一国ではやっぱり立ち向かえない。  なので、地域として何とか…私が作った言葉は「コレクティブレジリエンス(collective resilience)」、共同の強靭性みたいなのをみんなで形成しようじゃないかと。  これはもうほぼコンセンサスで、どの国もそれぞれの地域、アセアン(東南アジア諸国連合)、カレック(中央アジア地域経済協力)など、色んな地域の取り組みがあるんですけれども、そこでADBは時には事務局、時には中心的なアドバイザーあるいはメインバンクとして、これからも、というか一層協力していくことになっています。  特にすでにコミットして発表しているのは、例えばアセアンパワーグリッドという1000億ドルのプロジェクトなんですけれども、国境を越えて再生エネルギーを中心にしっかりと電気を融通し合う送電網を作る計画で、ADBもすでに100億ドルを中心的に出して、このプロジェクトというのを推進していくことになっています。

【高市政権の「責任ある積極財政」】  Q.経済を立て直す努力を各国がしていると。高市政権は「責任ある積極財政」を進め、財政悪化への懸念も。痛みを伴う改革とは逆のベクトルを向いている印象もあるが、今の政権の政策をどう見る?  A.特定の政策を良い悪いという立場ではありませんけれども、認識しなきゃいけないのは、非常に今、マーケットがセンシティブというか、ボラテリティが高くなっていて、資金移動もすごく早くて大規模なんですよね。別にトラストショックの時だけじゃなくて、今はすごく敏感になっています。 したがって、言ってみれば投機筋に隙を見せるようなことがあると極めて危険で、国を一番守るクッションといいますか、バッファーになるのはやはり健全なマクロ経済運営、財政の持続可能性あるいは金融がしっかりとしているということであって、そこが失われるとやはり怖いですね。  特にマクロ系のヘッジファンドとか、よく見ているのは、今、金利が上がっている。しかも中東危機のせいで今後インフレ、そしてさらにグローバルな金利が上がる可能性がある中で、日本は世界最大の政府債務を抱えていますから、これで金利が上がっていく時に持続可能なんだろうか。  ある意味、スパイラルになっちゃうわけですよね。金利が上がって、さらに国債を出して、国債発行してまた金利が上がって、大丈夫だろうかというような心配がマーケットで高まっているのは事実ですね。  そうした時には、しっかりと我々は、まさに責任ある財政、持続可能性というのをしっかりと守っていく覚悟といいますか、決意とそれから能力、プランがあるんだというのをもってマーケットに安心させる、コンフィデンスを維持していくということは極めて重要だと思っています。

 ただ、他方で、この機会に、さっき、途上国、あるいは加盟国の一般論として申し上げましたけど、日本もその例外ではなくて、今回の危機はやはりかなりの痛みがあります。  ものすごくエネルギー価格が上昇する。他の物も上がって、輸入物価が上がるということは日本の購買力を消耗させるわけですから。  ただ、この機会に、やはりこんな体制じゃいかん。色んな意味で多様化とか、国力を強化させなきゃいけない。そのやり方というのは極めて当たり前のことなんですね。打ち出の小槌なんかなくて、やはり健全なマクロ経済運営の下でしっかりとした構造改革と、それから戦略的な投資によって実質賃金、生産性を上げていくということに尽きると思うんですね。  これまで、日本はある意味、既得権益を守ったり、過去からの労働慣行を維持したり、ある意味、生産性が上がらないようなことをずっとやってきちゃったんですけれども、逆に言えばそれは伸びしろがある。  普通の市場経済、もちろんセーフテイネットは必要ですよ。困っている人たちに手を差し伸べることは必要ですけれども、ただ、生産性を上げていくための一定の新陳代謝が、まさにこの資本主義経済が社会主義経済に勝ったエンジンですから、そこを少しでも復活させれればかなり日本は強くなれると思っています。  それが本当に経済を良くして財政にも貢献することになる。

 もう一つは、やはり日本は内向きになっている。  特に人々が外に行かなくなっていますよね。そこは非常に良くない。  やはり、これまでの日本というのは開かれていて、海外からことを学び、そして外でチャレンジをしてきた。これをもっとやるべきで、特に、せっかくアジアにいる。世界で一番成長の可能性があるアジアにいるわけですから、そこにもっともっと羽ばたいていけば、それは日本経済自身にも大きなリターンをもたらすことになるんだと思います。

【日本の取るべき対応】  Q.日本ではこの夏にも電気ガスの補助を出すという話も一部で出ていたり、消費税減税の議論も進んでいる。他の国々の状況を伺っていると、今そういうことをやっている場合ではないのでは  A.他の国々でもやはり足元急に生活が苦しくなった人に対しての支援・補助というような大きな政治のプレッシャーがあるのは事実で、皆さん悩んでおられます。  そういった時に、やはり持続可能性とか公平性とか、あるいは逆進性がないようにするとか、色んな観点からなるべく的を絞るということをしている。  それからやはり財政の負担も考えて、そうすると最も費用対効果が高いのも一番脆弱な人たちに集中的に助けてあげることなので、そういった観点からやっているんだと思いますけども、ただ、他の国でもエネルギー補助をやっている国はないわけではありません。  そういった、ポピュリズムとまでは言いませんけれども、そういった政治的な要請と合理的な経済原則の間で、様々な結論が出されている中で、一般論として申し上げれば、なるべくターゲットを絞った方が良いだろう。なるべく価格メカニズムというものを、ある程度は生かして、「Pass-through(パススルー)」というんですけれども、全部止めちゃったら市場に負けます。もう一つはキリがない。  なので、言ってみれば、補助が全部駄目だということではないんですよね。ただ、賢くやる。なるべく的を絞って、時限にして、適切なインセンティブをやって、貴重な資源というのを有効に活用するという工夫が必要なんだと思いますね。

【「円」の現状とこれから】  Q.日本の円について現状をどのように分析していて、今後どうあって欲しいか  A.今の足元、これも私の見解というとややこしくなるのでマーケットでよく言われていることということで話すと、いくつかの要因で動いていると思うんですね。  足元の日々の動きというのは、やはり一番大きいのはリスクアペタイト(risk appetite)、リスク相場というやつで、我々リスクオン、リスクオフというんですけれども、分かりやすく言うと、中東情勢が良くなるとリスクが減ったように思う。そうすると油が下がって株が上がって金利が下がってドルが下がる。  こういったこと、非常に分かりやすい動きなんですね。  その中にはよく言われるタコトレードという、トランプ大統領のご発言で上がったり下がったりというのも含めて、ある意味分かりやすいところがあります。  まさにこの紛争がどうなるのか。とりわけ一番敏感に反応するのは、油の相場ですけれども、他の相場もかなりある意味整合的に動くことが観察されています。

 ただ、それにもかかわらず、そうすると全体でドルが上がったり下がったりする。ここのところはまたちょっと難しいんですけれども、その要因にもよる。  一つは、安全通貨だという解説もあるんですけれども、ただ去年のいわゆる関税戦争のときは非常に貿易体制が不確実になったときはドルが下がっていて、極端に言うと、一部の人はディベースメント(debasement)、ドルからの逃避みたいなことを言っていた人たちもいるので、必ずしもそうではない。  ただ今回も、それはあると思いますけれども、もう一つはやはりその油の純輸出国であるという強い立場というのが、油が苦しくなる、あるいは紛争が続きそうだとなると、ドルの増加の要因になっているということが言えると思います。

 だとすれば、恐らく連動して各通貨とも上がったり下がったりするはずなんですけれども、円だけ上がらないとき、あるいは下がっちゃうときがあります。  そこでよく言われているのは、たくさんあるんですけれども、大きく2つあって、一つは金利差ですね。金利差は少し縮小しているとはいえ、やはりまだ大きくて、特に政策金利のノーマライゼーション、正常化っていうんですかね、それが遅れていると、しばらく金利差変わらないだろうと思うと、キャリートレードっていう、要するに安い金利の円で借りて円を売って高いリターンのあるものをやる。そうすると円安が続いちゃうっていう現象が指摘されています。  もう一つは、さっき話に出た財政リスクですね。  今このままだと、本当に財政の持続可能性大丈夫なんだろうか。とりわけマクロ系のファンドなんかは、そういったところでポジションを考えていて、ある程度円資産をあまり持っていると怖い。あるいは円を空売りすると儲けられるんじゃないかみたいな思惑っていうのが結構出てきているリスクがあります。  そういったときに騰貴がドライブするような過度の変動っていうのは、それは良くないんで、しっかりと対応しなきゃいけないですけど、ただ基本はやっぱりファンダメンタルに合わせて円滑に動くっていうのが良いことで、実際に為替っていうのはある意味経済の実態に合わせた調整弁みたいなことをやっているので、そうすると円を守るにはやはり国力を強くするしかない。  とりわけ日本の場合は食料とかエネルギーをこれだけ輸入に頼ってますから、円安っていうのは本当に普通の人を苦しめます。普通に生きている人、あるいは購買力を奪って生活が困難になる。あるいは中小企業を含めて、企業の原材料の調達が苦しくなる。  彼らは何も悪いことしてないわけですよね。非常にアンフェア。でも、本当に日本の国力が弱っていくとそこは避けられない部分があるんです。  なので王道として国力を上げなきゃいけない。  今どうなっているかというと実質実効為替レートっていう、まさに日本の円の本当の実力っていうのはピークの3分の1になっちゃってるんですね。  よく海外行ったらラーメンが3000円っていうのは当たり前なんですよ。日本で1000円だったら肌感覚で外だったら3000円になっちゃう。  そういう状況を続けると、いずれ一生懸命皆さんが汗水を垂らして働いても、これまでのように食料とかエネルギーを得ることができなくなっちゃう。海外旅行もできなくなっちゃうでしょ。それでいいのかっていうことなんですね。  でも、そんなものは政府で止めれることではありませんから、国力を上げる。  国力を上げるためには先ほど申し上げたような極めてオーソドックスなことをやる。しっかりとしたマクロ経済運営をやる。構造改革、戦略的な投資で生産性を上げる。実質賃金を上げて。  もう一つは、もう少し開かれた国にして、海外からのエネルギー、ダイナミズムを取り入れ、我々も海外から学ぶ。 そういったことをやっていけば伸びしろが大きい分、まだまだ日本は生き延びれるし、さらに羽ばたくことができると信じています。

【為替介入に効果は】  Q.今のところ(4月24日時点)、政府・日銀は為替介入はしていないが、一方で口先介入とされる要人の発言はあります。今、介入することに効果はあるのか  A.それは状況次第ですね。  結局、ファンダメンタルに沿った動きであれば、それはしょうがない部分がある。  ただ、それでもものすごい急速な動きの時は何らかの対応が必要な時もあります。  ただ基本は、騰貴に基づいて過度の変動の場合に効果があるし、ジャスティファイ(正当化)されるという風に考えられていて、実際そうなんだと思いますね。  先ほど申し上げたのは基本的な要因で、それが騰貴が増幅させている部分はあります。  ここから先はもうジャッジメント(判断)で、日々よく見ていくしかないんですけれども、ただ、数年前に比べるほどのポジションの動きではない。  それは何でかというとあまりにも不確実性が高すぎてですね、多くのトレーダーというのは、分かりやすく言うと両方、上サイドと下サイドの両方でポジションを持っているんですね。  なので、非常に複雑な状態になっていて読みにくいところもあるんですけれども、私から余計なことを言うつもりは全くありませんけれども、すべては状況次第なんだと思いますね。

【国際開発金融機関(MDBs)代表グループの議長として】  Q.MDBs代表グループの議長だが、神田総裁が進めようとしていることとは  A.今、色んな国でナショナリズム、あるいは内向き思考みたいな、あるいは保護主義まである中で、多国間主義というのが弱くなっている。  日本は伝統的に、あるいは国の置かれた立場からいって、自由で開かれた国際秩序とよく言われますけれども、多国間主義というのは死活的に重要で、MDBs(国際開発金融機関)というのはそういったものの中核になっているわけですね。 ある意味一番機能しているし、一番強力で、幸い今、私はそれを取りまとめる議長なのでしっかりとやっていきたいと思っています。  非常にありがたいのは、それの参加者は世界銀行総裁のアジェイにしても、欧州開発銀行のオディール(総裁)、それから米州開発銀行のイラン(総裁)、それから欧州投資銀行のナディア(総裁)、それからIMF(国際通貨基金)の専務理事のクリスタリーナ、みんな昔からの友達ですごく協力してくれているんですね。  本当にありがたいので、我々共同してやっていくことをしっかり進めて、それ自体、世の中の役に立つ、グローバル経済の役に立つだけじゃなくて、多国間主義の重要性というものをしっかりと立証していきたいと思っています。

 その中身はいくつかあるんですけれども、一番具体的なもので進めているものの一つは、民間市場の開発、プライベートセクターデベロップメントというもので、これも色々やっているんですけれども、一つはパブリックセクターだけだったらとても膨大な資金ニーズを賄えないので、民間資金の動員が必要であるし、あるいは効率性のために市場のダイナミズムというのを入れていくべきであるということで色んなことをやっています。  ちょっと専門的になりますけれども、オリジネートトゥーディストリビュート(Originate-to-Distribute)みたいなある意味資金を有効に活用することとか、あるいは新興市場のリスクをしっかりと分析してみんなに共有するようなGEMs(グローバル・エマージング・マーケッツ)コンソーシアム、こういうことをやったり、あるいはさっき申し上げた話と関連するんですけれども、現地通貨建ての市場を強化していく、取引を拡大していって為替リスクを減らす、こういったことをやっています。

 2つ目は、日本の政策と非常に連携しているんですけれども、重要な分野での連携ですね。  一つは重要鉱物で、重要鉱物のサプライチェーンの多様化、強靭化というのをやる。  日本も非常に素晴らしい取り組み、「パワーアジア」というのを出されて、私もその首脳会議に出させていただいたんですけれども、こういったものも我々みんなで協力していこうと思っています。  もう一つは水ですね。これもしっかりみんなで協力してやっていこうと。  3つ目は「MDBs as a system」というんですけれども、みんなでシステムとしてより効率的にやっていこうということで、一例を挙げますと、ちょっとまた英語で恐縮なんですが、「Full Mutual Reliance Framework」といって、完全にお互い信頼し合った相互依存のフレームワークという意味で、例えば協調融資をやりますよと。その時に、普通だと両方の銀行に借入国は相談を続けなきゃいけませんよね。色んなことを言われて。ただこの枠組みではどっちかだけでいいようにするんです。これはもう抜本的、革命的なことで、だから例えばアジア開発銀行がリードするものは、世界銀行はすべて私に任せていただくと。アジアがやるものは私やアジアを信用してやってくださいと。その前にしっかりと政策はハーモナイズ(調和)しますけど、そういった枠組みを入れた。

 もう一つは、これも日本と非常に関係するんですけど、プロキュアメントですね。調達。調達でバリューフォーマネー、単なる価格じゃなくて本当にその価値のある契約にしていきましょうというのを、MDBs全体で推進していくということ。  ADB自身は結構その先端をやっていまして、すでに質を価格よりも重視するというものを強制するような取り組みをこの1月から実施していますので、これは他の機関でもみんな進めていくというようなことをやっています。  非常に皆さん協力的で、やっていて意義が高いなと思っております。

【5月のADB総会では】  Q.5月にADB総会があるが、中東情勢を抱えるなかで、どういう議論を期待するか  A.やはり中東情勢の認識の意見交換と、それに対しての対応ですね、特に短期的な緊急の支援みたいな話というのは中心の一つになるとは思います。  ただ今回、やはりいかに我々のシステムが脆弱であるのか、サプライチェーンが非常に一部の地域に集中していること、あるいはエネルギー源が偏っていることの危険性というものをみんな認識しましたので、今回はどうやったら強靭性を高めることができるのかというのも大きなテーマになります。  私自身は、さっき申し上げた色んなそれぞれの国の多様化の努力もあるんですけれども、地域として強靭性を高める。みんなでこのショックを吸収できるようにすることも必要であろうということを一つの哲学として掲げていまして、実際に、まだ今一生懸命調整しているところなんですけれども、とりわけエネルギーとデジタルについて、地域の連結性を、恐らく史上初めてと言っていいような野心で打ち出せたらいいなと思っております。

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