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NCCアナウンサー 溝田 浩司ブログ:2008年8月
夏・点描
"サイレンが鳴ったのは、踏み切りの遮断機が下がり始めたときだった。
赤い警報機の点滅と警鐘の電子音が交錯するなか、小走りで踏み切りを走り抜けると 遮断機のバーが背中をかすめた。
「そうか、もうあの時間なんだ...」
バッグから携帯を取り出して時計を見た。液晶画面には「AM8:15」の文字が映 っていた。空には長いサイレンが鳴り続けている。歩道の真ん中に一人立ち止まって いる女性が見えた。女性は小さな日傘をしっかりと握ったまま、きつく目を閉じてい る。汗ひとつかいていない化粧のしたで、眉間がかすかに震えているのがわかった。
朝だというのに日差しは強く、足元にはすでに濃いがけが落ちていた。切り離された ようにサイレンが鳴り止むと女性はまた歩き始めた。何かを確かめるように、ゆっく りとした足どりで踏み切りを渡った。
松山町の電停を下りて国道を渡ると、もう目の前が爆心地公園だ。モノクロのイメー ジしか思い浮かばない昔とは違い、いまはすがすがしいほどの緑にあふれた公園に生 まれ変わっている。午後2時。逃げ場のない暑さが体から水分を奪ってゆく。ペット ボトルの水はもう残り少なくなっていた。
原爆落下中心碑には花と千羽鶴があふれていた。その周りを半紙を貼り付けた灯ろう が幾重にも囲んでいる。平和を願う「同心円」だ。
〝私はこれを、「死の同心円」「魔の同心円」と心の中で名づけた〟 故・秋月辰一郎医師は、著書「長崎原爆記」にこう記している。「自分もやがて死ぬの だ―」。爆心地を中心とした絶望の輪は、その後40日間も続いたという。
中心碑の奥にある小道を抜け、川沿いに歩いてゆくと平和公園の裏にでる。石畳の坂 を上ると、白い大テントの向こうに水色をした平和祈念像が見えた。平和祈念式典の 会場はすでに取り壊しが始まっていて、耳障りな重機の音が公園を支配していた。ヘ ルメットをかぶった作業員の誘導に従って祈念像前まで歩いた。焼香の人は絶えない。 ペットボトルは空だった。突然、レモン色のワンピースを着たハイヒールの女が祈念 像を背にポーズをとった。振り向くと、カメラを持ったサンダルの男が白い歯を見せ ながら笑っていた。
夏休みをあと1週間残して町内のラジオ体操が終わった。まぶしかった朝の太陽も、 いつのまにかやさしさを取り戻していた。子どもたちのご褒美は100円ショップの お買い物券だった。ぼろぼろになった体操カードを、子どもたちはどうするのだろ うか。帰り道、見上げた空には美しいうろこ雲が広がっていた。"
赤い警報機の点滅と警鐘の電子音が交錯するなか、小走りで踏み切りを走り抜けると 遮断機のバーが背中をかすめた。
「そうか、もうあの時間なんだ...」
バッグから携帯を取り出して時計を見た。液晶画面には「AM8:15」の文字が映 っていた。空には長いサイレンが鳴り続けている。歩道の真ん中に一人立ち止まって いる女性が見えた。女性は小さな日傘をしっかりと握ったまま、きつく目を閉じてい る。汗ひとつかいていない化粧のしたで、眉間がかすかに震えているのがわかった。
朝だというのに日差しは強く、足元にはすでに濃いがけが落ちていた。切り離された ようにサイレンが鳴り止むと女性はまた歩き始めた。何かを確かめるように、ゆっく りとした足どりで踏み切りを渡った。
松山町の電停を下りて国道を渡ると、もう目の前が爆心地公園だ。モノクロのイメー ジしか思い浮かばない昔とは違い、いまはすがすがしいほどの緑にあふれた公園に生 まれ変わっている。午後2時。逃げ場のない暑さが体から水分を奪ってゆく。ペット ボトルの水はもう残り少なくなっていた。
原爆落下中心碑には花と千羽鶴があふれていた。その周りを半紙を貼り付けた灯ろう が幾重にも囲んでいる。平和を願う「同心円」だ。
〝私はこれを、「死の同心円」「魔の同心円」と心の中で名づけた〟 故・秋月辰一郎医師は、著書「長崎原爆記」にこう記している。「自分もやがて死ぬの だ―」。爆心地を中心とした絶望の輪は、その後40日間も続いたという。
中心碑の奥にある小道を抜け、川沿いに歩いてゆくと平和公園の裏にでる。石畳の坂 を上ると、白い大テントの向こうに水色をした平和祈念像が見えた。平和祈念式典の 会場はすでに取り壊しが始まっていて、耳障りな重機の音が公園を支配していた。ヘ ルメットをかぶった作業員の誘導に従って祈念像前まで歩いた。焼香の人は絶えない。 ペットボトルは空だった。突然、レモン色のワンピースを着たハイヒールの女が祈念 像を背にポーズをとった。振り向くと、カメラを持ったサンダルの男が白い歯を見せ ながら笑っていた。
夏休みをあと1週間残して町内のラジオ体操が終わった。まぶしかった朝の太陽も、 いつのまにかやさしさを取り戻していた。子どもたちのご褒美は100円ショップの お買い物券だった。ぼろぼろになった体操カードを、子どもたちはどうするのだろ うか。帰り道、見上げた空には美しいうろこ雲が広がっていた。"
2008年08月30日
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