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墓参り

"冷たい風がそれほど嫌にならないこの季節、 いつも脳裏によみがえる出来事がある。それ は6年前の春分の日にまつわる出来事だ。

その日私は、郷友会主催の戦没者慰霊祭を取 材するため、長崎市西小島にある佐古招魂社 にきていた。春分の日の墓参りは、いわば定 番の取材なのだが、この日はいつもとは違う 目的があった。それは、富山からわざわざ先 祖の墓参りに長崎へやって来た人を取材する というものだった。

佐古招魂社には、明治7年の台湾出兵や、明 治10年の西南戦争で命を落とした戦没者が 奉られている。そのご老人は、自分と同じ名 前の先祖、たしか祖母の兄にあたる方だった と記憶するが、その先祖の墓がここにあるこ とを知り、わざわざ一人で遠く長崎の地を訪 れたのだった。

玉砂利が敷き詰められた慰霊式の会場に、そ のご老人はひとり佇んでおられた。さっそく 声をかけた私に、恐縮した様子で、しかし熱 心にこの地に眠る先祖のことを話して下さっ た。聞けば、前年に生死を彷徨うほどの大病 を患ったとのこと。かねてからの念願だった 墓参りが実現して、すでに感無量のご様子だ った。

その当時ご老人のお歳は77歳。喜寿を迎え ていらっしゃった。感極まって涙を流しなが らインタビューに答えてくださったのをいま も覚えている。

郷友会の方を通じて、そのご老人の訃報を聞 いたのは、初夏を過ぎ夏の日差しが盛んにな り始めた日の朝だった。故郷の富山県で車に ひかれ、亡くなられたという。

ご遺族の住所を知り、私は長崎での様子を手 紙に書いた。ご老人は、家族には何も告げず に長崎への一人旅を計画したらしく、事情を 知ったご遺族から丁重な返事をいただいた。 ご遺族によると、なぜかいつもは降りること のない駅で下車し、知らない土地を歩くうち に事故にあったのだという。満足しきった安 らかな死顔だったのだそうだ。

ご老人は長崎を離れた後、数ヵ月をかけて旅 しながら故郷に向かったようだ。その旅で、 ご老人は何を思い、何を悟ったのだろうか。 ほころび始めた桜を見ると、いつもあのご老 人の顔を思い出す。"

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溝田 浩司

1990年4月入社
福岡県出身
福岡大学卒
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