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NCCアナウンサー  溝田 浩司ブログ:2006年6月

フィクション

"雨が降っていた。新しい夏物のスーツはひざ から下がびしょぬれだ。傘をたたんでバスを 待っていると、隣りの傘が袖にあたってまた ぬれた。急いでいるときに限ってバスは遅れ てやって来る。

バスの窓はどれも結露でくもっていた。指で 触れば、いまにも水がしたたり落ちそうだ。 座るのをあきらめてネクタイをゆるめた。し ばらくゆられていると背中に汗が流れた。

運転手が控えめにクラクションを鳴らす。駐 車場に入れようとしているのだろう。その車 は、バスレーンで切り返しを繰り返している。 バスの後ろの方でまたクラクションが鳴った。

ようやく動き出したバスは、すぐに赤信号で 止まった。少し急なブレーキがかかり、あわ てて吊革を握りなおした。運転手はいつもの 通りエンジンを切った。しんとした車内に、 かん高い音楽プレイヤーの音がもれ聞こえて きた。

首筋の汗を拭こうとハンカチを探したが、ど うやら忘れたようだ。バス停で乗客数人が降 りた。車内が少し広くなった。最後に降りよ うとした人がカバンから財布を取り出し小銭 を探し始めた。

10円玉を一枚一枚料金箱に入れる音がする。 運転手は前を向いたままだ。外はあいかわら ず雨が降り続いている。突然、車内に小銭を ばら撒いたような音がした。見ると本当に小 銭が転がってきた。

10円玉は、バスの一番後ろのほうの座席の 下に隠れてしまった。雨でぬれた床にひざを ついて腰をかがめ手を伸ばしてみるが、なか なか見つからない。

乗客の視線が、10円玉を探す汗ばんだ背中 に注がれる。あきらめたのか、その人がふい に立ち上がった。そのはずみで、座席にかけ てあった乗客の傘が大きな音をたてて倒れた。

あわてて傘を拾おうとした2人の頭がぶつか った。鈍い音とともに小さな悲鳴があがる。 目の上が切れたのか赤い血が見えた。10円 玉は見つからない。

誰かが大きな声をあげながら立ち上がった。 その声をきっかけに多くの乗客が席を立ち始 めた。突然、警告音が鳴りバスのドアが閉ま った。将棋倒しになった乗客から悲鳴があが る。運転席の男が笑った。混沌を乗せたまま バスは、ゆらゆらと走り始めた。

(フィクションです)"

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溝田 浩司

1990年4月入社
福岡県出身
福岡大学卒
0型

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